東京高等裁判所 昭和29年(ネ)2680号 判決 1955年2月28日
控訴人 原告 根本松男
被控訴人 被告 日興相互株式会社 代表取締役 荒井清
主文
原判決を取り消す。
被控訴人は控訴人が昭和二十八年六月二十三日被控訴会社の監査役を辞任した旨の変更登記手続をしなければならない。
訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。
事実
控訴人は主文同旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
理由
控訴人が被控訴会社設立の当初からその監査役であつたが、昭和二十八年六月二十八日これを辞任したのにも拘わらず被控訴会社が右辞任による変更登記をしないことは、当事者間に争のないところである。控訴人はこの場合被控訴人に対し監査役の辞任による変更登記をすることを求めることができるであろうか。元来監査役と株式会社との関係は委任に関する規定に従うのであつて、その辞任は会社との間にあつては直ちに効力を生ずるのであるが、これを善意の第三者に対抗するためには登記を要するのであるから、株式会社は監査役に対しその辞任を善意の第三者に対抗させるために登記をなすべき義務を負うものといわねばなるまい。けだし、監査役と会社との関係が委任もしくは準委任の法律関係であるからには、その終了に伴い、会社は監査役に対し会社に対する関係においても、また第三者に対する関係においても辞任の効果を生ぜしめる措置を採り以つて当該監査役をして会社との間において内外ともに全く無関係の立場に置くことは委任もしくは準委任の本質からみて事理の当然と解すべきであるからである。このことは、たまたま商法会社編において、その規定する登記を申請することを怠つた場合に、その義務者に制裁を科することを規定し、この義務の履行を強制していることと毫も矛盾するものではなく、この公法上の義務と前記私法上の義務とは併存して何ら妨げないものである。しかして前記のように控訴人は被控訴会社の監査役を辞任したからには、被控訴人に対しこの事実に副うように変更登記をすることを請求する法律上の利益があることは、監査役に関する登記が公示方法であつて、しかも事実にていしよくする登記の存する以上、また当然のことといわねばならない。
この請求権を肯定し所要の変更登記申請をなすことを命ずる判決は、民事訴訟法第七百三十六条にいわゆる意思の陳述をすべきことの判決に外ならないから、この判決の確定を以つて登記申請をすることができるのである。はたしてしからば、控訴人の本訴請求は正当であつて、これを認容すべく、これを棄却した原判決は不当であるからこれを取り消すべく、民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長判事 岡咲恕一 判事 山本長次 判事 亀山脩平)